「映画覚書 vol.1」(阿部和重/文藝春秋)

「文学界」や、「Cut」誌に発表された映画評を一冊にまとめた著者初の映画評論集。「文学界」で話題になった「後藤、石川、藤本、そして/あるいは永作」もきちんと掲載されている。「青春ばかちん料理塾」「17才旅立ちのふたり」のDVDのジャケ写と、武田鉄矢さんとごっちんのツーショット、ミキティ梨華ちゃんのツーショットのスチール写真もそれぞれ掲載。索引には「石川梨華」「後藤真希」「藤本美貴」でちゃんと載ってるし、“後藤真希の秋のコンサート・ツアー「2003秋〜セクシー!マッキングGOLD〜」が9月6日から始まった。”という書き出しもそのまま掲載されている。ムフフフという感じである。
 さて、この本、なんでこんな装丁なのか? あまりにチープなので思わず笑ってしまう。レジにも持って行きにくいじゃないか。どう考えても狙ったとしかいえないどうでもいい水着の女性のデッサンだけはきちんとしたダサいイラストがどど〜んと。いくらでも権威ある映画評論集的なかっこいい表紙が作れるはずなのに、やっぱりこれは、阿部氏がわざとかっこよすぎるのをはずすために「とにかく、ださいイラストを入れてください」と注文したのであろう。こういう“ずらし方”というのは、ある種、つんく♂に通じるものがあるのではなかろうか!??
 さて、内容の方はといえば、タランティーノの「キル・ビル」をしごく“常識的な演出の施された新味に欠ける映画”と断定してみせたり(実際、バカ映画としてなら「過去のない男」のほうが圧倒的にバカであったし、一連の香港映画にくらべればしごくまっとうな作りになっていたと思う)、コロンバイン高校の乱射事件を扱った映画「エレファント」を“慎ましげに作り上げられたミュージカル映画”と表現してみたりと、非常に示唆に富んだ内容になっていて面白い。真面目な映画評論集として楽しめる一方、“(ちなみに私は小学4年生か5年生の頃に通信販売で購入した『死亡遊戯』のトラックスーツのレプリカを着て小学校に通っていた経験があるが、(後略)”といった記述や、ゴタール来日の際にパーティーに呼んでもらえなかったことに憤慨する様といった笑える瞬間も多々あり、とても充実した一冊になっている。