◆「地獄のババぬき」(上野宣之/宝島社文庫
「地獄のババぬき」の作者、上甲宣之は第一回「このミステリーがすごい!」大賞において、「そのケータイはXXで」でインターネット読者投票第2位に選ばれ、隠し玉として出版デビュー。その「ケータイはXXで」に登場し、村に訪れた娘を“生き神”として死ぬまで座敷牢に監禁するという忌まわしき伝説が伝わる阿鹿里村から壮絶な帰還を果たした女子大生がこの「地獄のババぬき」でも主人公となっている。私はこのXXという作品は読んでいないのだが、別に読んでいなくても十分楽しめる作りになっている(上にXXを読みたくさせる方式になっている)。
阪急梅田駅の高架下にあるバス乗り場から出発した長距離バスがバスジャックされ名神高速道路の大津サービスエリアで警察の封鎖にあい停車。と、関西に住むものにはえらく身近なロケーション。
車内では生死をかけた“地獄のババぬき”が行われようとしていた!!
そのババ抜きに望む面々が、西尾維新戯言シリーズを彷彿とさせるような濃い〜〜〜キャラたちなのだ。霊媒占い師、伝説の賭博王、マジシャン、殺人鬼、深層心理に詳しい有名大学の現役女子大生などなど、(最後の一人を除き)こんな人たちが乗っている深夜バスには絶対のりたくないものだ。ちなみにそのうちの一人“義眼男”は攻殻機動隊のバトーの外観を想像して読んだらえらくかっこよく思えてくることうけあい。
西尾維新的な、なんていってたら出てくる女子大生の学校が立志館大学となっているではないか(戯言シリーズいーちゃんは“鹿鳴館大学”)。これらが京都にある同じ大学を指しているのは明らかで、そこまで同じとは、と思っていたら、作者の上甲宣之氏も立命館大学出身なのだそうだ。
尤も、キャラの濃さという点で西尾維新を引用しただけで、本作品が西尾維新の亜流かといったら全然そんなことはない。寧ろ登場人物たちは実に素直でいーちゃんのようには屈折しておらず、どんどん作者の思う壺にはまっていく。さらにFM放送のリスナーの語りとして挿入されるサイドストーリーも不気味で面白い。
命をかけてこれまでババぬきをしたことがなかった私(大概の人はそうだろうと思うが)には目から鱗、カードにこめられた人の体温だとか、人の鼓動を聞く耳とか、これ以上書くとねたばれになってしまいそうなのでやめておくが、勝ち抜くための必殺技の数々にはただただ呆れ・・・じゃなくてその奇想天外な想像力にただただ呆れ・・・じゃなくて、ただただ恐れ入ってしまったのだった。


◆「いつか王子駅で」(堀江敏幸/新潮文庫
昨年末からちょっとづつ読んでいた「いつか王子駅で」を読了。都電荒川線沿線を舞台に、実務翻訳の仕事をしたり、週に一度学校に教えに出かけたりしている「私」の日々の生活を描きつつ、電車や競馬、文学についての思いがからめられていく。小説のようなエッセイのような批評集のようなそんな体裁でたんたんと読ませつつ、時に、実に鮮やかな景色となってスピーディーに走り出す文体に魅せられ、蒼然と目の前に広がる景色に胸のすく思いがする。


◆「支那そば館の謎」(北森鴻/光文社文庫
副題に“裏(マイナー)京都ミステリ”とあるように、京都嵐山の奥の奥にある大悲閣千光寺の寺男が、寺の周りに起こる事件に挑む連作短編集。この寺男が元裏家業の怪盗で、ドアなどもなんなくあけてしまったり出来る人物なのだが、本来なら“密室”トリックになりそうなものも、逆にドアを開けてしまって密室でなかったことになるというような逆説的な部分があって面白い。他にも、京都人のけちくささから来る名刺ネタとか、町屋とか、京福電鉄とか、京都ならではの事物が、うまく事件にからんできて(と、これ書いてもネタバレにはならないと思うんだけど)、京都好きにはお薦めの一冊。
ちなみにこの大悲閣千光寺というのは実在するお寺らしい。大悲閣千光寺の住職が解説を書いておられるのだが、最初、これも作りものではないかと疑ってしまった。
さすがにそこまで凝った作りではないらしく、ちゃんと実在するお寺ということなので、いつか訪ねてみたい。途中で遭難しないように気をつけながら。




あ〜、餅を食べ過ぎて死にそうです。
エルダーコンはネタバレしないで行くつもりだったのに、超意志が弱いせいで結局あちこち巡回してしまった。まあこればっかりは実際観てみないとなんともいえないので、大阪公演当日はのんびりと座って鑑賞してきます。