8月に観た三本の映画について、とりとめもなく書く。

ハチミツとクローバー
「なんで絵を描くのか」という問いに蒼井優が「描かずにはいられないから」と答えるのを観て、その純真さに心を打たれると同時に、己の汚れきった様を恥じたりもしたのだが、映画「ハチミツとクローバー」は、そんなふうに眩しいくらいきらきらした若さで溢れた映画になっていて、映画を観ている間、にこにこと画面を見つめ続けていた。
そこで学生たちが描く作品は決して上手い作品には見えなかったけれど、いかにも画学生たちが描きそうな代物で、それもまた、青さを感じさせてなんだか愛おしい気持ちにさせるし、好きな人に好きだと言って、それに返ってくる「ありがとう」という言葉の持つ意味にとらわれながらちょっとせつなくなったりしつつ、蒼井優の満面の笑みに魅了されてしまったりもした。
でも、傑作の予感が走った前半に比べて、後半は急速に魅力を失ってしまって、桜井翔の自転車が、ちっとも映画的に輝いてこなかったのが残念でならない。
原因はなんなのだろうか?と考えても、物語を急ぎすぎただとか、ナレーションを多用しすぎたとかありきたりな言葉しかみつからず、うまく表現できないけれど、どこかひとりよがりの自己完結につきあわされたような宙ぶらりんな気持ちで席をたたなければならなかった。エンディングでスピッツが流れたあとに、嵐の楽曲まで流れてきて決して嵐は嫌いじゃないんだけど(アルバム買ったこともあるし)、ここはスピッツだけでよかったのになんて、そんなことまで思ってしまった。


「ラフ」
ハチミツとクローバー」は原作コミックを読んでなくて、この「ラフ」も原作を読んでなかったんだけど、水泳とか飛び込みの話しらしいっていうんで、最近読んだ森絵都の「DIVE!」みたいな感じなのかなと思っていたら、そのストーリーが、昨年映画化された「タッチ」にそっくりなので、映画を観ながら笑いそうになってしまった。「タッチ」とは違って双子の兄弟ではないけれど、結局1人の美少女をめぐって2人の男子が競う話で、そこに到底その中にはいっていけなさそうなのに主人公を好きになる気の強い脇役の女子がいたり、交通事故があったり、あだち充作品は「みゆき」ぐらいしかまともに読んでないけど、そういうバリエイションの作家なのかなと思った。
そして、長澤まさみが出る映画は必ず「長澤まさみのための長澤まさみによる長澤まさみの映画」になるんだなという印象も持った。「世界の中心で、愛をさけぶ」「タッチ」に引き続き長澤まさみは素晴らしくて、長澤まさみ、かわいいなあっていう観点だけで最後までひっぱられる。最初のほうの毒舌長澤まさみともこみちの会話部分のテンポのよさは大谷健太郎らしさがよく出ていたんじゃないかな。


時をかける少女
この作品に関しては別のところに書かせてもらう機会があったので、ここではちょっと気になったことだけを書いておこうと思う。本作品はアニメーションなんだけど、人物のキャラクターが結構平面的で、表情も乏しいし、全体的に薄い印象がある。一方で、背景は緻密に描きこまれ、かなりインパクトが強い。
一般的に一つの絵であれば、画面の中心となる人物はリアルにえがかれ、バックは若干ぼかした感じで描かれるか、あるいはどちらもリアルに、またはどちらもぼかして描かれるものだ。でも、この作品では人物はなんだか頼りない線で描かれている印象なのだ。
ところが、そんな頼りない線の人物たちが実にリアルな存在に見えてくるからあら不思議。これは、一つには動きがリアルであるというキャラクターの運動性があげられると思うんだけど、もう一つの理由としては、薄いからこそ感情移入しやすいということがあるのじゃないだろうか。日本人は古来「見立てる」という能力にたけているという。薄いがゆえに、そこに見る人それぞれが、自分のヒロイン像をあてはめたり、キャラクターを膨らませていくことが出き、それぞれがそれぞれのリアリズムを感じることができるのではないか。一方できちんと夏の風景や校庭のざわめきといったものは、詳細に丁寧に提示して、全てを見るものにだっこにおんぶするということはない。このあたりの見せ方が絶妙だと思う。


そして、このアニメーション作品は上記の2つの漫画を原作とした実写版の映画よりずっと生身に近い息吹を感じさせたというこの事実。



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