「タイヨウのうた」

観ようによってはシンガーソングライターYUIの壮大なプロモーションビデオともいえるかもしれない。実際、自分はこの主人公を雨音薫とは観ずにYUIと思って観ていたし、ここで流れる楽曲は雨音薫作というよりYUIの作品だと思って聴いていた。と、いささか意地悪にも聞こえる書き方をしてしまったけど、それでもなんだか、いやな感じは全然しなかったし、それどころか、映画としてとても魅力に溢れた作品になっていて驚かされた。
その理由は、なんといってもYUIの素直で飾らない演技があげられるだろう。初々しくて、実際の年齢よりもずっと幼く見える。誰もが彼女に手を差し伸べたくなるだろう。さらに相手役の塚本高史が素晴らしい! 映画を観たたくさんの人がこの「藤代孝治」を思わず好きになってしまったに違いないのだ。
ティーンエイジの恋愛を描く際、まず見る、見られるというシチューエーションが重要になってくる。少年は最初は見られる人だ。少女が自宅から早朝まだ陽が照らないうちに学校に出かけて行く少年を見つめている(登校前に彼はサーフィンをするつもりなのだ)。その見つめている期間が私たちが思うよりも随分前からだったということが後に判明して心打たれるのだが、その構成もうまいし、また、見る人だった少女が、少年に見られる立場に変わるその逆転の瞬間も面白い。見る人に代わった少年の心に宿ったものを観客は咄嗟に悟ることが出来るのだ。
他にも、晩御飯だと呼ばれてキッチンに下りてきた少女が、そこに少年がやってきているのに気付いて黙って部屋を去り、その後、幾分おめかしして出てくる場面など、言葉よりも画で語ろうとする作り手の姿勢が好ましい。
この作品は、恋愛ものというだけではなくて、難病ものなのだけれど、難病を患っている少女の親の心理も丁寧に描かれており、後半は涙、涙であった。

舞台は鎌倉。鎌倉(周辺)を舞台にした映画や小説っていうのは名作が多い。この「タイヨウのうた」に宮崎あおいらが出演した「ラヴァーズ・キッス」、あややの「青の炎」を加えて、私的鎌倉(周辺)青春映画3部作と勝手に名づけてみることにする。