「樹の海」(ネタバレ注意)

自殺した人、自殺を決意した人、ヤクザに半殺しにされ置き去りにされた人、自殺者の供養に訪れた人、自殺志願者からの連絡をうけ、入り込んだ人、様々な人が富士山ろくに広がる“青木ヶ原樹海”に足を踏み入れる。“生と死”をテーマにした4つのエピソードが交錯し語られる。
「TWIN PEAKS」や、「ブレア・ウイッチ・プロジェクト」といった森の脅威を描くアメリカ産の諸作品では、森は暗くておどろおどろしく描かれることが多いけれど、「樹の海」における自然は、ひたすら鮮やかで眩しい緑で、静かで、きらきらと生命感溢れているように見える。だからこそ、人はそこを死に場に選ぶのだろうか?
その中で、人が迷わないように(?)誰かが張り巡らしたロープが逆に異様な感じを風景に与えているようにも見える。
(1stエピソード)
暴力団に脅され、公金横領をさせられたあげく、半殺しにされ樹海に捨てられた男。扮するは、萩原聖人。この人は、「CURE」なんかでも、その片鱗があったけど、1人語りの役がうまい。森の中で独りぼっちは怖いから、自殺を遂げた田中さんが、腐敗していくのを見ながら、離れられず、「田中さん」「田中さん」と話しかける姿が、滑稽かつリアルだった。
(2ndエピソード)
ヤミ金の取立て屋(池内博之)は、夜逃げした顧客(小嶺麗奈)からの携帯電話でのSOSを受けて、樹海へ足を踏み込む。自殺をしようと思ったが、足をくじき、取立て屋に助けを求めているという行為が、そこはかとないおかしさを醸し出し、死と生が隣り合わせであるのと同様、人生の悲劇も喜劇とまた隣り合わせだ、と言うが如くだ。ほとんどが、池内の一人語りで展開するのだけれど、それが最終的に愛の物語へと集結していく過程がいい。
(3rdエピソード)
2人の男が、樹海で死んだ女性をきっかけに出会う。居酒屋で男たちが意気投合していく様子に作者の暖かさが滲みでているようだ。
(4thエピソード)
物語の語り口や、過去と現在の繋げ方など、一番うまいのはこのエピソードだと思う。1人の女性の孤独と狂気と哀しみと再生が静かに語られる。「電車男」で困った酔っ払いを演じていた大杉蓮が、“電車のとてもいい人”役だったのが印象的。
また、この作品のネクタイや、エピソード2の東京タワーの置きものなど、小道具にもセンスを感じた。
公式HPhttp://www.bitters.co.jp/kinoumi/