「コーヒー&シガレッツ」

chori2005-05-11

ジム・ジャームッシュ監督が、コーヒー&シガレッツをテーマに十年以上に渡って撮ったショートストーリー11本を集めた作品。
これは、私のような特にコーヒーが好きなわけでもなく、また煙草は好きどころか、大嫌い、近くで吸われるのもイヤ!という人間が見ても楽しめる作品になっている。そもそも、食べることこそ人生の至福の時、といった一種の人生哲学みたいなイタリアあたりの料理映画とは違って、コーヒーと煙草こそが人生である、なんてやぼなことはジャームッシュはやりません。ましてや、喫煙派の人間が、最近のタバコバッシングを嘆き、喫煙こそ生き甲斐なんてことを主張する作品でも当然なく、とにかく、この映画、まず画!ありきなのだ。つまり、自分のような煙草嫌いでも、映画の中で人物が煙草を吸うシーンはとても好きだったりする。だって、かっこいい、絵になる、さまになる。例えば、ゴダールの「勝手にしやがれ」のジャンポール・ベルモンドのくわえ煙草とか、アラン・ドロン主演の「さらば友よ」の中でチャールズ・ブロンソンがもくもくとあげる煙草の煙とか、そんなかっこいい画面がすぐに思い出せるし、コーヒーといえば、ゴダールや、トリュフォーに出てくるカフェ風景とか、あるいは、Bruce Davidsonの写真集に出てくるカフェテラスとか、が思い出され、なんだか、こんなどちらかというと古い映画しか思い出せないのは、この「コーヒー&シガレッツ」の世界がまさにその雰囲気だからなんだけど、つまりは、煙草やコーヒーというのは、それだけで絵になる代物で、その画をまずジャームッシュは撮りたかったんだと思う。
シンプルなコーヒーカップ、モノトーンのテーブル、背の高い砂糖のはいった瓶、あるいは、小さな袋に詰められた砂糖、灰皿、マッチ、スプーン、それらを真上から取らえたショットが何度もうつるが、その単純な構図だけでわくわくするような素敵な世界が画面から溢れてくる。なんだか、よくわからないけど、こういうのを“映画的”と呼ぶのじゃないの?! 
さらに、そのテーブルにジャームッシュは二人以上の人間を配列してみせる。これがまたいいのだ。まるで公民権運動時代のファッションのような黒人青年と、彼に呼び出された友人というシチュエーションの「NO PROBLEM」なんて、素敵素敵! 二人の座っている席の後ろにパリかどこかを彷彿させる絵がかかっていて、それらを捉えたショットは実に素晴らしい絵になっている。そして、そうした画面から、イマジネーションが湧き出てきたかのような話しの展開がこれまたとても面白い。とりわけ好きなのは、「COUSINS? いとこ同士?」で、「スパイダーマン2」のドクターオクトパスに扮していたらしいアルフレッド・モリーナと、「24アワー・パーティー・ピープル」で、トニー・ウイルソン役をやったスティーヴ・クーガンが実名で登場して展開するちょっとした小噺なのだが、“スパイク”を使ったおとしどころがよかった。ケイト・ブランシェットの「COUSINS いとこ同士」は、おちもきっちりした非常に良くできたコントといった感じ。さらにさらに「DELIRIUM 幻覚」のビル・マーレイがやたらと可笑しい。この映画が始まる前にウエス・アンダーソン監督の「ライフ・アクアティック」(ビル・マーレィ主演)の予告編をやっていたんだけど、これがまた面白そうで、絶対観にいこう!!
気楽に楽しく観れてそれでもってかっこいい一篇。