「檸檬のころ」/豊島ミホ(幻冬舎)

檸檬のころ

檸檬のころ

”「地味な人なりの青春」をいつか書きたいと思っていました。女子高生なんてだいたい派手で遊んでいるイメージ、でなければ逆にすっかり病んでしまっているイメージが氾濫する今ですが、地味な高校生活を送っている子たちだって相当数いるはずです。その地味な生活に輝く一点の星にスポットを当てて書こうと決めて、この連作短編集に取り掛かりました”
と作者のあとがきにあるように、ある東北地方の進学校”北校”を舞台に、そこに通う普通の高校生、卒業生、学校近くの下宿屋の娘などを描いた連作短編だ。第一話の「タンポポのわたげみたいだね」は、”女子二人もの”で、仲の良かった女の子が、二年になって、同じ電車に乗らなくリ始める。保健室登校が増え始める彼女。いつも彼女のためにとっている電車の隣の席にある日、一人の少年が、自分がそこにおさまりたいんだと告白してくる。それを受け入れる少女。そして、翌日、少女と少年の前に現れる友人・・・
ちょっと胸がちくちくするような痛い感情と、爽やかな強さが混在する物語。その他の作品も地味ではあるものの、なかなか魅力的な人物が登場して、恋に人生に悩む姿が、瑞々しく描かれている。
これはちょっと昔、80年代の少女漫画全盛期に少女漫画で描かれた世界ではなかろうか? そういえば、当時の少女漫画について”本来なら小説がする役割りを少女漫画がになっている”と評した文章を見た気がするのだが。今の少女漫画で、こうした微妙な感情を描いてみせるものといえば、西炯子の「STAY」シリーズくらいしか思い浮かばない。今、こうした少年少女の日常の機微を描くものは、確実に減ってきている気がする。
逆にいうと、また小説にその役割りが戻ってきたともいえるのかもしれない。作者には是非ともこの路線を続けてほしいものだ。