「カンフーハッスル」(少しねたばれあり)

今、手元に「空手のスーパースターたち」と題した一冊のスクラップブックがある。このことを書くと歳がばれてやばいのであるが、そのスクラップは、いわゆる「燃えよドラゴン」の公開で一躍火がついたカンフーブームのころの「ロードショー」や「スクリーン」誌に掲載されたブルース・リーカンフー映画関連の記事を集めた切り抜き帳だ。カンフーと空手の違いもわかっていなかったバカな子供だった私がせっせと作った代物なのだが、これを見るたびに思うのは、「自分ってこのころから全然進歩していない」ということである。で、その中には、今ではみられないような、貴重なドラゴン映画の数々の切り抜きがあるのだが、中に「怒れタイガー」というのがあって、当時自分はこれが気になってしょうがなかった。しかし当然そのようないかがわしそうな映画に親が連れて行ってくれるわけもなく、私的幻の映画となっている・・・・。と、なんだか随分長い前振りをしてしまったが、何が言いたかったかというと、そうそう、ブルース・リャンである。「怒れタイガー」とブルース・リャンは、なんの関連もないのだが、当時ブルース・リーの後継者として、様々なスターが紹介されていた中で、もっともブルール・リーに近い存在として、ブルース・リャンを認識していた記憶がある。バカな子供時代の話しなので、本当にそうだったのかは、はなはだ怪しいのだが、その後ジャッキー・チェンが紹介されてどんどん名声を得ていく中で、ブルース・リー至上主義だった自分は、そのジャッキー・チェンの素晴らしさに気づかず、ハリウッドが「レッド・ブロンクス」で初めてジャッキー・チェンを発見するまで自分もその凄さに気づくこともなく、ただ、ブルース・リャンだけは、映画もなにもみていないのに、気になる存在であり続けた。
 チャウ・シンチーの「カンフー・ハッスル」を観終えてパンフを観たときに私は驚嘆した。「えぇぇぇ〜!ブルース・リャンだったの〜〜〜!」 そう、「カンフー・ハッスル」で最強とされる「火雲邪神」を演じたのが、ブルース・リャンだったのだ。なんと、15年ぶりの映画出演なんだそう。自身の初の本格的カンフー映画にブルース・リャンを引っ張り出してくるとは、恐るべしチャウ・シンチー。さすが“ブルース・リーの子”!!
とまあ、興奮せずにはいられないほど、「カンフー・ハッスル」は、素晴らしいアクション映画であり、知己に跳んだコメディー映画であり、2000年代に蘇った痛快なカンフー映画なのだ!!! 
物語の舞台は、文化革命前夜の中国。逃げようとする情婦を「女は殺さぬ」と言いながら、あっさり後ろから機関銃で撃ち殺してしまう殺伐集団斧頭会(女子供も容赦せぬ香港映画節で幕を開ける)。このあと彼らは斧ふりまわしながら集団でダンスするんだけど、このシーンをはじめ、ハリウッドの往年のミュージカルへのオマージュとか、西部劇への敬愛なんかも感じさせるチャウ・シンチーのシネアストぶりが遺憾なく発揮されている。そして相変わらず、登場人物が超個性的なキャラばかりなんだけど、豚小屋砦の住人でずっと半尻の男は、「少林サッカー」で、「ぶさいく」キャラを演じた一般公募のあの人ではないの?  
ひとつの映画にこれでもか、これでもかといろんな楽しみをぶち込んであるので、途中、あれ、チャウ・シンチーがあんまり出てこないね〜と気がつきつつも、その不在に不満をもたさないような作りになっていて、最後の見せ場へつなげていくあたり、パワフルな映像の裏っかわで、随分と緻密な構成がなされていることが伺える。最後の大決闘は、CGがたんまりと使われ、本来こういった格闘ものは、それまで散々派手な武器が使われいたとしても最後は素手で勝負という肉体のぶつかり合いを期待されるものなのだが、この作品の場合は、どんどん強い超人が次から次へあらわれていくという格闘マンガの王道路線をいっているので、目覚めたチャウ・シンチーがCGまみれの格闘をみせても、モンスター映画としての伏線がずっと貼られているために、意外と素直にアクションを楽しむことが出来た。上半身の肉体美をみせびらかしているチャウ・シンチーが、ブルース・リーに成りきって酔いしれてるのだろうと思うと実に微笑ましく、そして、可憐なヒロインとのエピソードでは見事に泣かされ・・・、マゾ的ギャグには大笑いさせられる、文句なしに楽しい一本!