「お父さんのバックドロップ」(ねたばれあり)

中島らもの小説の映画化作品だそうだが、小説は未読。映画はど派手な色合いの洗濯物がはためくボロアパートから始まる。時代は1980年。「新世界プロレス」の中年プロレスラー、下田牛之助(宇梶剛士)が引越して来たのだった。二階には長い階段が2本のびている。今でも大阪の町にちらほらみかける景観などまったく考えていない泥臭い作りのアパートだ。牛之助には10歳になる子ども一雄(神木隆之介)がいるのだが、母親が他界したため祖父のいるアパートに引っ越してきたのだった。一雄は母親の死が寂しくてならない。母が亡くなるときも、プロレスの試合でかけつけることができなかった父を嫌っていて、プロレスラーだということも恥じている。
そんな設定なのだが、まず、随所に笑いが盛り込まれていて、子どもたちの演技がいい。顔だけで、存在感たっぷりな中島役の清水哲郎とか、ひとつひとつの動作がまるっこくて可笑しみに溢れている哲夫役の田中優貴が味があってあって、みているだけでふきだしたくなる素晴らしさ。その2人とつるむことになる一雄役の神木隆之助との貴公子ぶりとは対象的で面白い。いじめっこの長谷川君役の子もよかった。
 ここでの子どもたちは、親の都合に非常にふりまわされている。“子ども”として甘えることを許されていないというか・・。一雄が父を嫌っている様子を見て、祖父が「大人の事情(都合?なんかそんな言葉だった)を子どもはわかってあげないと」と言うシーンがあるんだけど、それは大人のせいで大人びた子どもになっている哲夫などはしゃ〜ないなあととっくに受け入れていることだ。彼が発する言葉に映画を観ている観客は何度も笑いを誘われるんだけど、それは、哲夫の外観と大人びた言動とのギャップからくるものなのだ。べつに彼だって成りたくて大人子どもになっているのではないのだ。そんなふうに苦労をしいられてる子供たちは、学校でもつまはじきにされていてちょっと泣かされる。普通の物語ならここで子どものために、人肌脱ぐ父親っという展開になるところかもしれない。「僕と彼女と彼女の生きる道」の草磲くんみたいに、子どもと向き合うために会社をやめるという展開がうまれてくる場合もあるだろう。
しかしここに出てくる大人たちは、やり直しなんて出来ない、この世界でしか生きていけない、ある意味やくざもの、とても不器用な人間なのだ。だからどうするのか?! もう力ずくなのだ、力技なのだ、だからプロレスなのだ、バックドロップなのだ!
展開的にはお約束だったりするんだが、実に明解で気持ちがいいのだ。
自分もヒーローにならなくっちゃ!と映画を観た「親たち」を俄然ふるいたたせたり、あせらせたりする愛すべき大阪ディープサウスの物語。中島らも氏も特別出演している。