「トントンギコギコ図工の時間」

つい最近「文化庁文化記録映画優秀賞」を受賞した「トントンギコギコ図工の時間」。私は、8月に十三の第七芸術劇場で見ました。野中真理子監督のドキュメンタリー映画第2作目は、東京都品川区立第三日野小学校の図工の時間を焦点にあて、様々な工作を作り上げる小学生たちをカメラに捉えます。時には、カメラは外に出て、小学生の放課後を追ったりします。受験を控えている子どもたちが、いるかと思えば、一昔前の子どものように、自然の中で無邪気に遊ぶ子もいます。しかし、そこからは、カメラは子どもたちの生活にはふみこまず、あくまでも基本は学校の図工の時間の中で彼らをとらえ、優しく見守るのです。
 まず驚かされるのは、5年生や6年生になると、本格的な大工道具を立派に使いこなしていることです。ある意味、大変危険な、気を抜けば大怪我に繋がるものを彼らは器用に使いこなしていきます。ここまでの習熟にいたるまでは、先生の並々ならぬ、指導があったと思われますが、映画は先生のインタビューを一切入れていません。これは、図工の先生が、インタビューをよしとしなかったのか、あるいは、野中監督の意志なのかいずれかはよくわかりませんが、インタビューや、先生の方針などをあえて語らずとも、画面からみえてくるものだけで、それらは雄弁に語られ、子どもたちが、見事に様々な工具を使いこなしている姿をみていると、この子たちは本当に大きな財産をもらっているなあ〜ととても感動してしまいます。だって、私なぞは、あのような道具は使いこなせませんから。
 友だちとの付き合いが苦手な女の子、受験で幼い妹の面倒をみてやれないことを気にしている女の子、何人かの小学生をクローズアップしながら、映画は6年生最後の作品作りを追います。彼等の紙にかいた構想が、ちゃくちゃくと(勿論苦労しつつも)形になってていくさまに魅せられます。 先生から褒めてもらった一言、やり遂げたことへの充実感、それらは、中学校という未知の世界へ進学していく彼等の大きな大きな力となるでしょう。これこそが教育の持つ大きな力なのです。
この映画に感動する一方思ったのは、この経験を出来る子が、多くの小学生のごく一部に過ぎないということです。今の教育のシステムでは、学校間格差が深刻になってしまうのではないでしょうか。この話しをはじめたらまた長くなりそうなので、別の機会に譲るとして、映画賞も受賞したことですし、各地で再上映があるときは是非みてもらいたい一本です。