「LOVERS」(ネタバレあります。注意!)

武侠映画は大好きです。宮崎駿も真っ青の、天空へ舞い上がる飛翔と落下という運動がおりなすアクションは、横長のスクリーンを上へ、下へと限りない空間に変えてしまうかのごとく雄大です。「LOVERS」での、朝廷からの追っ手が、チャン・ツィイーと、金城武の二人を竹林の中で、上から上から襲ってくるシーンは、澄んだ緑という眩暈がするような美しさの中で、優美で力強く、鮮やで執拗で、観ていてものすごい高揚感に包まれました。
 しかも、ストーリーが騙し合いに次ぐ騙し合いという意外性に溢れており、その事実を知るたび、過去の映像を頭の中でフラッシュバックしてしまい、すっかり、こ映画の世界にのまれてしまっているのです。そして、なんといっても、スター映画であること! チャン・ツィイー金城武、そして、アンディ・ラウ。この3人が、哀しくも悲壮な三角関係を演じるのですよ。面白くないわけがない!
さて、そんな中、チャン・ツィイーの作品は、ほぼ完璧に見ている(はず)私が思い出すのは、彼女のデビュー作といわれる「初恋のきた道」であります。監督は、「LOVERS」と同じチャン・イーモウ。ゴシップにはあまり精通していない私ですが、公開当時、監督とチャン・ツイィーの仲がいろいろと取りざたされていたことがあります。事実がどうであったかはよくは知らないのですが、少なくとも、チャン・イーモウが、チャン・ツィイーに恋していただろうということは、映画を観ればわかります。初恋の人をおいかけるチャン・ツィイーのアップが多用されるわけですが、観ている方は、チャン・ツィイーの視線の先よりも、チャン・ツィイーを見つめる監督の熱い視線をひしひしと感じてしまうわけです。でもこれは映画にはよくあることです。ゴダールアンナ・カリーナなどを思い浮かべてみたらいいと思います。
 その後二人がどうなったかなんてのは、よく知らないのですが、チャン・イーモウ監督の前作「HERO」にも、チャン・ツィイーは出演しています。ですが、この作品のチャン・ツィイーは、他の大スターたちから一歩さがったような役柄に終始して少々物足りなさを覚えたものです。ここでは、監督と女優の関係だかなんだかはなにも見えてきませんでした。
 で、今回、私には、アンディ・ラウの役柄に監督が自己投影をしているような気がしてしょうがありませんでした。自分の好きな女が他の男を誘惑していることにめらめらと嫉妬してしまう、アンディ扮する劉。森の中で、「自分のほうがつらいんだ!」と金城に対して、叫ぶわけですがあとになればなるほど、その意味の悲痛さがわかってくる・・・。アンディ・ラウチャン・イーモウの魂が(!?)乗り移ったかのような緊迫したものを感じたのですが、それは、やっぱり下世話な見方なのでしょうか。
ともあれ、韓国映画「武士〜MUSA〜」といい(DVD買ってしまった)、チャン・ツィイーは、男に命をかけさせるに値する女性を演じさせれば世界一といえるでしょう。そりゃあ、惚れますって。