「後藤真希写真集 PRISM 」(ワニブックス)

 クール&ビューティーな側面以上にごっちんの素の部分とかあどけないかわいい人柄に惚れているファンとしては、今度のカメラマン沢渡朔氏は、自分の好きなイメージではないだろうなという思い込みが先行していた。ところが、開いてみるや私はすっかりこの写真集の持つ世界に引き込まれてしまっていた。
 被写体であるごっちんの美しさにふらふらとしそうなのは、無論のこと(完璧なボディですね)、写真集全体がトータル感に溢れているんである。とても明快な統一性があるっていうのだろうか? これをこそ作家性って呼ぶべきなのか? カメラマンの目に迷いが無い。例えば週刊誌の先行グラビアだとか、ネットにあがっている画像を集めただけでは判らないような一冊の本の中から立ち上がってくる世界感があるのだ。
 時々写真集で、被写体である女の子以外のなにか小道具とか風景を写した写真がはいっている場合がある。今回の「PRISM 」なら、車の中から撮った雨の日のハイウエイだとか、サボテンのカットなんかがそう。いつもの私なら、こんなもの写さなくていい、ごっちんを写せ、ごっちんを、ああページがもったいないと思っていたはずなのだ。でも、この濡れそぼったハイウエイのモノクロの画とちょっとピンボケしたごっちんのポートレイトが並んでいるのを観ていると、なにかそこに立ち込めるアンニュイなドラマに似た雰囲気が漂ってきて、はっとしてしまう。さぼてんも同じ。ブラインドから漏れる光でまばらな縞模様になっているさぼてんのモノクロ写真(ちょうどそれと同じシチュエーションでごっちんをとらえたショットもある)とちょっと髪をぱさつかせたまま、放心したようなごっちんの写真が並んでいて、そこに私はなぜだか、場末のブエノスアイレスあたりの異国にいる不安と安堵とでもいった切なくも甘いような世界を想像してこりゃあ、小説になるなあなんてまあ、そんなことを考えていた。このあたりは、見る人によって想像するものは違ってくると思うけれど。
 これこそ、撮る側と撮られる側、プロとプロががちんこで勝負した傑作です。これまでの写真集の中で一番好き!