「攻殻機動隊」とサリンジャーと。

しかしまあ、こんな偶然はそうないと思うんだけど、実際、この文を見てそりゃ〜嘘だろう、あとからこじつけたんだろうとか思われても仕方ないようにも思えるけど、でもでも、本当に偶然なんですよ! たまたま、その時私はサリンジャーの『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモアー序章ー』『ナイン・ストーリーズ』(どちらも新潮文庫)を読んでいて、そして一方でたまたま『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』のDVDを借りて観ていたのだ。どちらも今、旬の話題のものでもないし、なぜこの二つがほぼ同時に行われたのかは何度もいうようだけど偶然としかいいようがない。サリンジャーを読んでいたのには多少理由があって、それはウエス・アンダーソンの『ライフ・アクアティック』の公開が直接のきっかけ。彼の前作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のパンフにサリンジャーの『フラニーとゾーイ』の影響についてのコラムが載っていて、その昔英米文学科の学生だったころに何度も読もうと試みながら挫折していたその作品をこれを機会にちゃんと読んでみたいと思ったのだった。新作も公開されるということでついに本を手にして読んだところ、これがとても面白かった(id:chori:20050530)。続けて読んだ『ナイン・ストーリーズ』も非常に面白くて、サリンジャーは若いころに読むべき作品だと思っていたけど、本当は年とってからの方が良さがわかる作品群なのではなんて思い、勢いづいて読んでいた。
一方の『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』は、これは単純に家族が借りて観ていたのだ。『イノセンス』などの映画は観たことがあったけど、テレビシリーズの方は未見だったので、これは良い機会だと思って一緒にみていると、そう、そこにはサリンジャーが各所で引用されていたのである! 『密林航路にうってつけの日』というタイトルは『ナイン・ストーリーズ』収録の『バナナフィッシュにうってつけの日』を文字ったものだし、「笑い男」というのも『ナイン・ストーリーズ』に収められている一篇からとられたものだ。第十一話では「団長」という言葉も出てきて、これはその『笑い男』の短編に出てくる登場人物の一人の呼び名だ。この『笑い男』というサリンジャーの短編は、一組の男女の別れが子どもの目を通して描かれるなんともせつない一編なんだけど、とても残酷な一編でもあって重苦しい読後感にとらわれたものだ。そうして第二十話ではトグサが『ライ麦畑でつかまえて』を読んでいるシーンが登場する。
サリンジャーの著作と「攻殻機動隊」の関連に関して、詳しくはユリイカ10月号「特集*攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」をご覧下さい。これが出版されるのもなんだか私的に凄いタイミング。いや、ほんとに偶然なんですよ!と言うより・・・・・・偶然に見えて偶然でないのか??