「ボーン・スプレマシー」(上映がとっくに終わった映画の感想)

マット・ディモンが記憶を喪失したCIAのトップエージェント、ジェイソン・ホーンに扮するシリーズ2作目。このシリーズの成功の秘訣は、舞台をヨーロッパに据えた一点にあると思う。勿論、スパイものは、昔から、ヨーロッパを舞台にしてきたものが多いから、このシリーズが特別変わったものであるわけではないんだけど、このシリーズにおけるヨーロッパはアクション規模を小さくするという役割りを担っているのだ。最近の(といってもそれは「ダイ・ハード」のころまでさかのぼる)アメリカアクション映画は、派手な爆破シーンなどを売りとした大味なアクションが主流となっていた。それらを打破するために、例えば、「トリプルX」のように、HIP HOPや、スポーツの要素を取り入れたり、アジアのスターたちを起用したりして、あの手、この手で、新味のあるアクション映画を試みようとしているのが現状といえるだろうか?!
ジェイソン・ボーンシリーズは、アクションをこぶりにすることで、シャープでスリリングなサスペンス映画として成功した。前作「ボーン・アイデンティテイー」では、ヨーロッパの狭い街角をカーチェイスするために、小回りのきくミニクーパーが使われ、アクションは控えめながらも、スピーディーな展開が小気味よかった。今作「ボーン・スプレマシー」も同様に、ヨーロッパの狭い街角をボーンが駆け抜ける設定で、街角はさながら迷路となり、CIAを翻弄する。さすがに今回もミニで、というわけにはいかないので、カーチェイスは高速に出て、ボーンはヨーロッパ大陸を北へ、北へと向かい、最終的には物語はロシアに出るので、どんどん空間は広くなってはいくのだけれど。
また、これまでのアメリカ映画におけるヨーロッパは、ヨーロッパにアメリカを持ち込むというものが多かったように思う。その点、ボーンシリーズは、ボーンが記憶喪失という設定で、ことさら、アメリアメリカといわず、ヨーロッパの風景の中に溶け込んでいて、ちょっと新鮮な空気が漂っている。ラストでボーンはニューヨークに現れるのだが、その風景は、「マトリックス」をはじめ、その他多くのアメリカアクション映画の場面を連想させる。それを見た瞬間、なんだか、画面が急に色褪せたような感覚に囚われてしまった。それは、クールで底冷えしたヨーロッパという舞台が、いかに新鮮で、この作品を魅力あるものにしていたかを確信させる瞬間だった。