「雨にもまけず粗茶一服」松村栄子 (マガジンハウス)

武家道家<坂東巴流>の跡継ぎ息子遊馬(あすま=18歳)が、車の免許を落とし、それを身内に拾われたことから物語は始まる。受験勉強の塾代を教習所通いに使い、京都の大学受験に出かけてるはずが、横浜にドライブに行っていたことがばれてしまった!家の跡継ぎはゴメンだ!これからは髪を染めて自由に生きるのだ、と家出した遊馬は、バンド仲間に半ば強引に京都に連れて行かれ、そこであまりに態度が悪いということで置き去りにされ、大嫌いな京都の地で、文無しの居候生活を余技なくされるのであった。
居候先の畳屋のおばあさんは、お茶の先生で、出てくる人、出てくる人、茶の道を愛している人ばかり。風変わりな京都の茶人たちとの交流から、すこしづつ成長していく遊馬の姿を描く面白くもユニークな青春茶道グラフィティー。まったりした京都弁が跳ぶかう、なんとものほほ〜んとした雰囲気で話は展開、お家元の事情や、古美術商人たちのあぶない裏側など珍しいエピソードをまじえつつ、その軽妙な文体からみえる、「家」と「個人」、「自由」と「伝統」、「親」と「子」といったテーマはなんとも深く、遊馬の行動や心の変化を読んでいくのは心踊った。
お茶といっても、単にたてるだけではなくて、その度に活けるお花や、掛ける軸まで、その場所や、テーマにそって、考えていく、まあ実に奥が深いもので、私は昔、お茶を習っていた友人から、袱紗の使い方を教えてもらっただけで、あまりにもややこしくて挫折したことがあるんだけど、忌み嫌いつつも、幼いころからしこまれてきた「作法」が自然と体にしみついている遊馬がなんとも羨ましく思えたのだった。これ、絶対NHKドラマ的だと思うな〜。