「オーバードライヴ」(ネタバレアリ)

テアトル梅田にて鑑賞。いきなり、着物を着た女性がラップを奏でる。いわゆるナレーター代わりに数回登場してくるのだが、これが意外といいんである。冒頭の和風ラップでまず、がっちり心つかまれた。で、これは一体誰なのかなと思ったら、元“dream”の阿井莉沙だとか。さて、筒井武文監督の「オーバードライブ」は、予告編で見る限り滅茶苦茶空回りの失敗作に違いないと確信して、それを確かめに映画館に足を運んだのだが、これが微妙にはずし捲くりつつも面白かった。自称天才ギタリストが、所属するユニットのリードボーカルと喧嘩して、酔っ払って外に出たところ、一台のタクシーが止まる。行く先を「下北まで」と告げて眠り込んでしまったギタリストが目ざめると、そこは、下北半島(青森)だった・・・。タクシーの運転手とばかり思っていた爺さんは、これまでもタクシー運転手にばけては、人をさらってきて、津軽三味線の修行をさせてきた男であった。逃げ出そうとしたギタリストだったが、爺さんの孫娘に目がくらみ、修行を続けることに。どうです?実にでたらめなストーリーでしょう? ですが、でたらめなストーリーを持つ映画ゆえの勢いが良い感じで出ている。さらに、ギャグもすべっていそうでいて、結構、鼻で「フッ」っと笑える面白さに溢れている。微妙な書きかたになってしまっているけど、これは褒めているのであって、例えば、天使と悪魔が画面の中にアニメーションで出てきて、ギタリスト=柏原収史にどちらも“悪魔の囁き”をしてみせる。「二人出てくる必要ねーだろ!」「どっちが止めてくれよ〜」と柏原がつっこむという、こうして文章にすると面白くもなんともないんだけど、柏原収史の間のとりかたがなかなかいい出来なのだ。つい「ふっ」と笑っちゃうのである。
 そして、この物語に流れる津軽三味線のドライブ感が、たまらなく気持ちを高揚させる。何しろ演奏が本物!柏原収史が、三味線をマスターして、素晴らしいパフォーマンスをみせてくれる上に、本物の津軽三味線奏者の新田親子が、抜群の演技力でもって重要な役柄を演じているので、吹き替えの無い、カットを割らずにすむ、本物の競演が熱くほとばしる。さらにしらじらしくもばかばかしい演技をやっているエキストラの皆さんも楽しそうで微笑ましい。本物があるから、嘘っぽくても大丈夫なのだ。ベテラン俳優のミッキー・カーチス石橋蓮司も見せ場一杯で嬉々として演じていて楽しめる一篇になっている。