はてなダイアリークラブ「〜ならばこの一冊」入院中に読むならばこの一冊

id:yukodokidokiさんから、はてなダイアリークラブの「〜ならばこの一冊」にお声をかけていただきました。いわゆる“バトンを受ける”なんてことには縁はないだろうなあ、と思い込んでおりましたので、かなり嬉しいです。ありがとうございます! このテーマをこういう形で発表できるとは、夢にも思っておりませんでしたが。いや、びっくり。というわけで早速書かせてもらいます。
●本のタイトル「 ガダラの豚 」(中島らも/集英社文庫)ASIN:4087484807
ガダラの豚」の内容に触れるというよりは、いかにこの本に出会うにいたったかという文章になっていることをあらかじめお断りしておきます。
 今からもう何年前になるんだろうか。「何も心配要りませんよ」という言葉がほしかったためだけに受けた健康診断にひっかかって、某箇所にできた腫瘍切除のため、2週間の入院を言い渡された。 これまで決して丈夫なほうではなかったが、大病には縁のないものと思っていただけに、まさに晴天の霹靂。だが、あわてふためく周囲とは別に私はひそかにこんなことを考えていた。
“2週間も入院したらどんなにたくさん本が読めるだろう!”。
なにしろ、体調が悪くなっての入院というわけではなく、ぴんぴんしているし、悪性でもないだろうという検査結果でもあったし、もともとそう悲観的な性格でもなかったので、一見外面は、「入院大変だなあ」というふうを装っていたが、心の中では「本が読める、本が読める」という気持ちで一杯。
 まずは、本選びである。さすがに手術をするのだから、術後は結構大変だろう。あまり、小難しい内容だと疲れてしまうだろうから、軽めのホンも容易しておいたほうがいいだろう。でもせっかくだから、普段はよめないような長編も用意しておこう、とラインナップしたのが、早川ミステリの「ウインブルドンの毒殺魔」と、ミステリ文庫の「エレナのために」(エリザベス・ジョージ)とあと、藤水名子の武侠小説と、もうひとつくらいあったかな、本来ならもう少しもっていきたいところだが、あまり鞄が重いとこちらの真意をさとられてしまうので、結構ひかえめなラインナップにおちついた。
 さて、入院初日、手術までの暇な時間が一日あるので「ウインブルドン〜」を読み始める。オフビートな妙な味わいのある作品。で、この作品を読み終わってからの手術だったのか、そうでなかったのか、細かいことは忘れてしまったが、手術は無事に成功。術後の痛みもたいしたことなく、あっという間に回復した自分は、「ウインブルドン〜」、藤水名子と、その他を読破し、そして、一番楽しみにしていた「エレナのために」にとりかかった。
 イギリスのケンブリッジを舞台にした長編で、ゲンブリッジ大学教授の娘エレナを殺害した犯人を警視庁警部リンリーが追うという物語。興味深く読み始めたのだが、これがとんでもない暗い、悲惨な話なのだった。読むにつれ、どんどん気持ちが落ち込んでくる。本で落ち込んだ気持ちだけではなく、今度は、それを引き金に自分自身がどんどん落ち込んで行ったのであった。というのは、あまりにも入院生活が快適であったために、家に帰るのがいやになってしまったのである。だって、本読むだけで何にもしなくていいのよ。こんな楽しい生活がありまして? もともと怠け者の私にはこれほど快適な生活はない! そして、今の生活が快適すぎるがゆえに日々追われていた時には気づかなかった日々の暮らしの理不尽さみたいなのが、うわ〜と不満となっておしよせてきたのだ。看護士さんいわく、これは、入院患者さんの中にはよくある思考パターンなんだそうだ。ともかく、なんだか、暗い本のせいで落ち込むは、いろんなことに腹たててるわで、なんともいえない悲惨な気分になってしまって、しかも途中で家族が大部屋から個室にかえてしまったので、話しをする相手もなく、見舞いに来てくれる人は、もっと早くに訪ねてきてくれていて、もうそんな時分には誰も尋ねてきてくれず、これはいかん、そうだ、気分転換に本を読もう、でももう何ももってきてないし、ちょっと抜け出して、コンビニにでもいけば、なんかあるだろうと思いを巡らした。
 そんな時に廊下で大部屋で一緒だった患者さんにばったり出くわし、「どう、元気?」とか聞かれて、「今からちょっと抜け出して本買いに行こうかなと」なんて話しをしたら、「やめとき、やっぱり、まだまだ安静の時だし、本が読みたいなら貸してあげるから」と言われて、その患者さんが貸してくれたのが、中島らもの「ガダラの豚」だったのだ。
 中島らもさんといえば、先日、お亡くなりになった時に、テレビのニュースで、「関西のサブカル系の人はみんならもさんに影響を受けた」とどなたかが語っていらっしゃったが、ま、自分がサブカル系かどうかは、べつにして、確かに、一目おくというか、尊敬するというか、影響も受けたし、前にも書いたように、当時やっていたミニコミ誌に原稿をお願いしたら、快くひきうけてくださったということもあって、敬愛するコピーライターであったのだが、小説というとまだ一作も読んではいなかった。ありがたく貸してもらいながらも、正直、面白いんだろうか? 冒険小説はちょっと苦手なんだけどな、と失礼なことを考えていたりもしていた。
 ところが、読み始めると、こんな面白い小説はないっていうほど、そのスピーディーな展開にすっかり引き込まれてしまった。新興宗教にのめり込んでしまう人々の描写の面白さとか、舞台がケニアにとんでの呪術や魔術が交差する壮大なスケールだとかに圧倒されながら夢中で読みまくった。上、中、下の三巻。こちらの退院まであと数時間、落ち込んだりする暇などなく、とにかく、退院の用意を全てすませ、家族がむかえにくるまでのタイムリミットまで、必死で読みまくった! 面白すぎる〜〜!
 家に帰りたくない病はその後もしばらく尾をひいたが、なんとかそれも乗り越えた。あの時、「ガダラの豚」を読んでなかったらもっと深刻なことになっていたかもしれない。また一杯本読ませてあげるから入院するかっていわれたら、でももう絶対いやですね。健康で本を読めるのがなによりだ。
 さて、結論です。入院したときに読む本は、暗めの子供がむくわれないような本を読むのはやめましょう。へんに落ち込んで具合悪くなりますからね。読むなら、痛快な冒険小説です。「ガダラの豚」、入院するしないにかかわらず、是非読んでみて下さい。
 
 ちなみに「夏休みの読書感想文を書くならばこの一冊」に関しては、去年、宮部みゆきの「理由」について書きました。もちろん自分の宿題じゃありませんよ。代筆です。去年はそのほかにも絵を二つも描きましたね〜。もう今年はやらないからね! と宣言しておこう。
さて、バトンですが、本といえば、この方、id:unmunigatyaさんに回したいと思います。「ファンが語る99の後藤真希」のほうで、お世話になったばっかりなので、またかいと思われるかもしれませんが、「バトンが回ってきてしまったけれど書かないでそのままバトンをまわしても大丈夫。」という、感じでもあるらしいので、どうぞ、あまり難しく考えず、よろしくお願いいたします。