「エレファント」(ねたばれありますので注意)

2003年のカンヌ国際映画祭で、史上初のパルム・ドールと監督賞のW受賞を果たしたガス・ヴァン・サント監督作品。出演している少年少女は全て素人の子ばかり。セリフも即興で作られていったという。マイケル・ムーア監督の「ボウリング・フォー・コロンバイン」などでも描かれた、1999年の4月20日ヒトラーの誕生日)に起こったコロラド州コロンバイン高校での銃乱射事件を描いている。
 冒頭、空へと(手前は電柱)固定されたカメラのもと(微速度撮影)、いつもの学校の喧騒が聞こえてくる。なにげない日々、変わらぬ風景、人生の中のほんの小さな一部にしか過ぎない一日。カメラは、何人かの生徒の後姿をひたすら追いかける。生徒たちは、もくもくと教室から教室へ移動する。カメラはその後ろにぴったりとついて、長い廊下を歩いていくシーンを繰り返す。時に、同じシーンが、違う角度からとらえられる。写真部(?)の少年と遅刻してきたジョンがすれ違いざま挨拶をして、少年がジョンの写真を撮るシーンは、合計3回も映し出される。最初は、ジョンを主体に、次は少年を主体に、そして、最後は、図書室へ向かういじめられっ子の女生徒を主体に。
 全ては、淡々と、事件を起こす少年たちの心理もほとんど描かれない。事件へといたるプロセスのみが淡々と描かれる。あまりに淡々すぎて、エンドロールが出た時、「・・・・・」と絶句したのだが。
あとになって、じわじわと、あの演出方が効いてくるのだった。たまたま助かることになるジョンを除いて、映されていた少年少女は全て犠牲者なのである。だから彼らの背中は淡々としつこいぐらいに映されていたのである。もし、彼らが犠牲者とならなければ、誰がそんな風景をいちいち気に留めるだろう? 彼らが犠牲者であったからこそ、彼らの最後の行動がある意味、意味のあるものになってしまったのだ。涙をながしながら、図書館でのボランティアへ急いだ少女が、あの二人がかわす会話の隅っこを駆け抜けてたなんて、そんなちっぽけなことは、彼女が、一瞬のうちに帰らない人になったりしなかったら、ほんとうにどうでもいいことだったのだ。
 なんて切なく、非情な映画なんだろう。