「花とアリス」(一応ネタばれ注意)

フォトジェニック【photogenic】
(形動)人の顔などで,写真うつりのよいさま。 (新辞林 三省堂
フォトジェニック
[photogenic]〜な写真写りのよいこと, 写真向きであるさま.(カタカナ語辞典 三省堂
花とアリス」を観ながら、岩井俊二作品って、“フォトジェニック”っていう言葉に集約されるんじゃないかと思った。表層的とかそういう批判的な意味じゃない。とにかく、見た目の心地よさが尋常じゃないのだ。
 なにしろ、画面がきれいでしょ。満開の桜に制服姿の可愛い女の子だよ! その女の子たちのコミカルなやりとり、ふと見せる寂しげな表情、バレエ教室で床に座って休憩する女の子たちのしなやかな姿態。全てが心地よく、美しいものを見ることへの幸せをたっぷり味あわせてくれる。
 岩井俊二の前作、「リリィ・シュシュのすべて」は、2001年度のMY邦画ベストワン作品だったりするのだが、夏休み明けの同級生の豹変をきっかけに、悪夢の世界で出口を失った中学生を描いた作品だった。その痛〜い展開に衝撃を受け、きりきりと心を痛めながらも、私は主演の市原隼人忍成修吾蒼井優らのフォトジェニックさに、魅了されていたと思う。緑の田園の中でCDウオークマンを聴く彼らの姿に胸が苦しくなりつつ、その画面の眩しさを瞼にしっかり焼き付けたっけ。
 「花とアリス」で心地いいのは、少女たちだけではない。どうにも優柔不断な少年、宮本(郭智博)が、ボソボソ、ボソボソと呟きながら、二人の女の子の間を行ったり、来たりするそのリズムがとてもいい。ここには逞しく元気な男の子なんていらない。2人の女の子の間でどっちにもつけず、ふらーと漂って、風景に溶けてるみたいな宮本はこの物語の中ではいわば理想だ。
 「花とアリス」を話の中盤までは、鼻でふっと笑ってしまうような面白さに溢れたコメディーとして、楽しんでいたのだが、アリス役の蒼井優がオーディションで紙コップをガムテープでぐるぐる巻きにして作った靴を履いてバレエを踊るシーンで、なんともいえない胸の高鳴りを覚えた。あまりの美しさに私は泣いた。最後はフォトジェニックな画面から立ち上るエモーショナルな渦に飲まれた。
 いやあ〜、いいもの観せてもらいました。