「ドッペルゲンガー」(ネタバレしてますんでご注意ください)

2週間も前に観にいっていたのに、感想を書いてませんでした。何時の間にかシネリーブルの上映が終わっていますが、まだ、大阪では動物園前シネフェスタでかかってると思うので、まだのかたはお急ぎください。
 なんの雑誌だったか忘れたけど、黒沢清がホラー映画について誰かと語っていて、幽霊の動きについての話をしていたことがあったのだが、「回路」とか、「降霊」とか、テレビの「学校の怪談・物の怪スペシャル」の「花子さん」(2001)といった作品は、いかに怖い作品を撮るか、いかに幽霊が幽霊にみえるように撮るか、を追求した作品だった。この「ドッペルゲンガー」も、冒頭は、それらの映画を継承するように、弟のドッペルゲンガーに出くわす永作博美を恐怖に満ちたカメラで捉えている。ところが、医療機器会社の研究者である役所広司が人工人体の開発で疲労とストレスが募る中、自身のドッペルゲンガーを目撃し対面するにいたって、あっさりとカメラも演出も、恐怖の追及をやめてしまって、ん?これは、“ジキルとハイド”の物語なのか?と思わせるも、本体が善人で、ドッペルゲンガーが、悪人と割り切れるような話でもなく、ドッペルゲンガーにとにかく消えていただきたいと思っていた本体はやがて、ドッペルゲンガーを利用し始め、研究の完成にこぎつけようとする。その間、「カリスマ」などでも、頻繁に登場した突然の暴力〜不意打ちの撲殺シーンがなにげなく挿入されて、静かなショックを演出する。
 やがて、ユースケ・サンタマリアが登場し、人工人体のロボットが完成すると、新潟に向けて出発するのだが、物語はこの部分から俄然面白くなっていく。人工人体をめぐっての金に目の眩んだ騙し合いと殺し合いが始まり、その停滞ぶりはなにやら、ゴダールの「ウイークエンド」を唐突に思い出させる。そして、死んだと思った人間が、次々と生き返ってくる様は、まるで、ゾンビ映画のようでもあり(この場面ではドッペルゲンガーは全て滅んでいて登場しないのだが、次々と生き返ってくるものこそ新たなるドッペルゲンガーなのだろうか?)、きわめつけは、スピルバーグ! ミラーボールが、階段をごろごろと落ちてきて、ユースケサンタマリアを襲うのである。このあたりの滅茶苦茶さが爽快でたまらない。
 さらに目的地について役所が、急に「こんなことのためにこれを作ったのじゃない」「俺は俺の好きなようにする!」と叫ぶにいたって、もうこれは完全に黒沢の独白映画なんだ、と思ってしまった。つまり、自分は、海外の映画祭で賞をとるためでも、国内の映画ジャーナリズムで評価されるためでもなく、自分の作りたいものを自分が思うように作るんだ〜! 今更ながらにゴダールやって悪いか〜! スピルバーグ好きなんだよ! 一度やってみたかったんだよ〜!という宣言なのだ。なんてわかりやすい映画なんだろう。そうだ、そうだ、そうに違いない!
 ところで、この映画は佐藤仁美の久しぶりの映画出演作でもあるのだが、彼女のデビュー映画「バウンスKOGALS」で、佐藤は既に役所と共演している。その際の緊迫感溢れるヤクザとコギャルのシーンを忘れられない者にとって、今回の2度目の顔あわせはなんとも物足りないものであった。 永作の代わりを佐藤に演じさせるには、彼女のキャリアがまだ足りないのだろうが、力のある女優さんだけにもう一花さかせてほしいと切に願う。