「パンチドランク・ラブ」(おもいっきしネタバレなので注意!)

冒頭、アダム・サンドラーが倉庫から外へ出てくる。カメラは、なんてことない平凡な町並み(ロサンゼルスの北部サンフェルナンド・バレーだそう)を映し出す。と、とたんに車がスピンして、猛烈な勢いでゴロゴロ転がっていく。そこに通りかかった車が、急停車しておもむろに小さなピアノをその場に置くと、矢のように立ち去って、修理工場の敷地の入り口にポツンとピアノが一台…。この唐突さは、ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督の前作「マグノリア」で突然降ってくる蛙以上にインパクトがある。
 更にしばらくして、凄まじい音をたてて通り過ぎる大型トラックに心臓ドキッ! いや、ホラー映画よか、怖い!とまあ、ちょっとくせのある映像と、先が読めない展開で始まった本作、アダム・サンドラーは生真面目に働くちょっと冴えないが、善良そうな男だ。ただし、突然切れて暴れだす傾向がある。これは、7人もの姉(仕事中にもひっきりなしに彼に電話してくる)の責任であることは明白だけど、当の本人たちは、気付いているんだが、どうだか。
 寂しさを紛らわすためにかけたテレファン・サービスが実はゆすり屋で、脅されるはめになるアダム・サンドラー。一方で、そんな彼を好きになる女性が現れ、さて一体どんな風に展開していくんだろうと思ってみていると、後半残り1/3ぐらいから、フィルムは急に加速度を増し、「一世一代の恋」に落ちた男の滅茶苦茶パワフルで、最高〜にかっこいい物語に変容していく。惚れた女のために人はここまで戦えるのか!
 現代という時代のどこか不安気な雰囲気をしっかりと描きつつ、PTAは、本作を最強のロマンチックコメディーに仕上げた。傑作中の傑作なのだ!