「茶の味」(ねたばれあり)

シネリーブル梅田にて。これまでの石井克人作品のイメージから、ちょっと凝った映像が特徴の面白おかしい話だろうという程度にしか期待していなかったのだが、これが実に今どき珍しい心温まるホームドラマで、笑わせ泣かせる傑作であった! 
 石井作品といえばまず「粘着質」という言葉が連想される。例えば「鮫肌男と桃尻女」の島田洋八小日向しえを襲おうとするシーンのしつこさとか、「「PARTY7」の鞄のどちらも絶対譲らない取り合いのシーンが思い出されるが(あるいは、キムタクと岸部一徳が出演している「富士通FMVシリーズ」のCMといったほうがわかりやすいかも)、「茶の味」においては、石井監督作品の常連の我修院達也が、孫娘を窓から覗くときのやりとりがそれにあたるだろう。コスプレ好きのオタクがでてきたり、イメージが全て具象化されたりするあたりなどは、いかにもCM出身の監督という雰囲気なのだが、もう一つの特徴、広い世界が描ける監督という点では、美しい田園地帯の広がりをとらえるショットも素敵だし、なんといってもラスト近くに宇宙規模で広がっていく映像にただただ関心。「世にも奇妙な物語SMAP特別編」の「BLACK ROOM」といい、日本人離れした空間意識のある人とみた。
 でもまあ、ここまでは、それなりに予想できる範疇なのだが、石井監督が、ここまで、恋する男子高校生の心情を疾走感溢れるダイナミズムさでもって豊かに描きだせる人だとは思わなかった。 
 時代の閉塞感を描いた作品は多いけれど、人間、別にいつも閉塞感ばかり感じているわけではないんだし、大人は不倫ばかりしてるわけじゃないし、老人だってちゃんと生きてるんだしと今のドラマ作りの逆手を行くような構成をあえてとり、本当に「動いている」人間を映し出している。パンフの中で海外レビューとして紹介されているものの中に“ヒューマンな精神において、小津安二郎の映画に近い”というものがあったが、間違いではないだろう。まさか、石井監督が小津をやってくれるとは思わなかった。小津作品ヘオマージュをささげる映画は多いけれど、これほど、小津から遠いように見えて小津的な作品は珍しいだろう。
ああ、それにしても劇中歌「山よ」が頭から離れない・・・。