「ジャンプ」(ねたばれありますので、これからご覧になる方は読まないほうが懸命です)

 写真日記本棚ならぬ、映画の中に見る本棚シリーズ。というわけで、久しぶりに映画の中での本が気になった作品がありました。佐藤正午原作の同名タイトルの映画化作品「ジャンプ」(竹下昌男監督)。酒に酔った主人公三谷(原田泰造)を自分のマンションに残し朝食のリンゴを買いに出たまま姿を消してしまった恋人、南雲はるみ(笛木優子)の部屋の本棚には佐藤正午作品がずらりと並んでいる。佐藤正午の作品は、あんまり読んでないのだけど、「永遠の1/2」、「リボルバー」と映画化された作品がどんとカメラにおさめられています。「永遠の1/2」は、原作も読んでいるし映画も結構好きでした。その「永遠の1/2」の監督、根岸吉太郎が今回の「ジャンプ」の企画に名前を刻んでいます。
 この佐藤正午の原作は「本の雑誌」のベスト1作品になるなど話題作でしたが、読みそびれていてまったく結末など知らずに映画を観た自分としては、ずっと観ている間持っていた、三谷に思いを寄せる同僚の女性が、牧瀬里穂でなくてもいいんじゃないかという疑問が最後にはすっかりふっとび、ずっと丁寧に描かれてきたこれまでの描写が一気に最後に終結して行く様は圧巻で、みたものに頭の中でこれまでの展開を高速巻き戻しさせるに十分衝撃的で、それでいて感動!のラストにすっかり魅せられてしまいました。冒頭の東京を映す青を基調にした風景や、夜明けを撮る映像、小さなディテールの積み重ね(主人公が飲むウーロン茶など)、原田泰造の実に自然な演技など見所は多いけれど、作品を見終わったとき、こんなに勇気をもらえる作品はそうそうないのではないか!? あの時、ああしていれば人生はかわったのだろうかなんて人はよく考えるけれど、私も思わず、自分の実人生に思いを馳せて、詳しく書くと恥ずかしいのでやめておくけれど、心の中でちょっとした肯定の嵐が吹きました。遠い古びた駅から遥かつながる心に涙しました。
最後にまったくの余談ですが、映画の中で「休暇届け」の書類が出てきたのを観たのはこの作品が初めてです。