最近の読書より「リアル」③井上雅彦

車椅子バスケットをテーマにした井上雅彦の待望の第三巻。この作品を読んでいると、いつも思い出されるのが2年前に公開された映画「タイタンズを忘れない」という映画だ。白人と黒人の学校が統合されたアメリカの公民権運動時代、ある高校のアメリカンフットボールチームが、人種の偏見を超え、ハイスクールがひとつにまとまっていく姿を描いた“感動作”なのだが、その中、白人の中心選手だったライアン・ハーストが事故にあって、半身不随になる。当時、私はそのことに関してこんな風にメモッた。 “ライアン・ハーストの苦しみがあまり描かれてないのは、どうかなあ。マンガ「リアル」の高橋なんて、100倍ほどつらそうだけど”。
 「リアル」の高橋は3巻でもいまだに苦しみ、寝たきりで、絶望している。作者は自らが生み出したキャラクターをとことんリアルにみつめている。それは裏返せば、この人物をとことん責任を持って抱えていこうとする姿勢なんだと思う。一人の不幸を“感動作”の中に都合よく埋もれさせてしまう前述の映画とは大違いなのだ。次回刊行まであと一年,どっしり、待ちます。