「エデンより彼方に」(ネタバレ有り 注意。)

 何時の間にか三番街シネマも全席指定になっていた。この界隈では、老舗の一部のミニシアターのみが自由席ってことになってしまったなあ。
さて、映画の感想なぞ。
今週発売の「TV Bros」によると、監督のトッド・ヘインズは、この作品を“ダグラス・サーク監督のファンのために作ったと語っているけど、その50年代にメロドラマを量産したサーク監督作品は日本ではほとんど観られない。で、そのサークの作品をリメイクしたといわれるドイツのR.W.ファスビンダー
の「不安と魂」は大昔に観たことがあるけど、な〜んも覚えていない。
 でも、とりあえず、作風が50年代のテクニカラーのメロドラマの再現ってことぐらいはわかる。紅葉した町並み、ジュリアン・ムーアの真赤なドレスにコートという、赤を基調とした画面がサッと青を基調にした場面にかわるところとか、ラストの象徴的な白い花など、実に美しい。そうした「遊び」の
部分を楽しむ一方、観ながら、頭の中に“アメリカン・リベラル”という言葉がうずまいていた。主人公の主婦、ジュリアン・ムーアが、裕福な家庭の偽善者でなく、正真正銘のリベラリストだからである。だから、ストーリーは、家庭の悲劇ものでも、一つ筋の通ったすっげーかっこいい話しになっていてわくわくしてしまった。
 例えば、「タイタンズを忘れない」のような、お涙頂戴的リベラルではなくて、揺ぎ無い信念と、それを取り囲むひどく困難なものを堂々と描ききっている。
日本人の多くが、漠然と持ってきたアメリカへの憧れというのは、こうしたアメリカのリベラリズムのイメージに対するものが大きかったのではないかと思う。で、実際、イラク戦争終了後の今のアメリカには、もはや、そんなイメージなど崩壊してしまったかのようではあるけれど、こういう映画を観ていると、アメリカの「良心」をまだ信じてみたいと思う。そうして、現実のアメリカ社会からは、そうしたものが失われてしまったとしても、映画だけは、「良心」を描き続けようという、作り手の意思を感じた。