「ワイルド・フラワーズ」(ねたばれあり)

先日の日記に、今週末で上映終わりと書いてしまいましたが、テアトル梅田では、さらに一週間、レイトショーで上映されます。まだの方は、この機会にどうぞ!
 冒頭、ある女性が、リングの上で、死を迎える。落ち目の女子プロレス団体“ガリンペイロ”の創設者にして女社長であるアイアン飯島その人であった。彼女は息子に団体の次期社長になってくれるようにとの遺言を残していた。アイアン飯島を演じるのは、「白い巨塔」で東教授夫人役、最近では、バラエティ番組で、とんでもない面白さを爆発させている高畑淳子。彼女が、プロレスラーとしてファイティングポーズをとっている写真が頻繁に映し出されるんだけど、もう、これ笑わずにはいられない。これは狙っているのが、それとも笑ってしまう自分がおかしいのか? もし狙っているのだとしたら、最近、高畑さんが盛んにバラエティに出まくっているのは、この映画の隠れプロモートであるに違いない。どんなシリアスな場面でもこのファイティングポーズが出てきたら思わず吹き出してしまうという、そんな楽しい映画である。
 さて、そのアイアン飯島の息子は、父親から母は遠い昔に亡くなったと聞かされており、今は、医大で、研修医生活をしていた。そんな彼をなんとか社長にさせようと、覆面つけたままの姿のレスラーたちが、病院をうろつき始める。ま、このあたりの展開は、実際、画面に乙女チック漫画、スポ根漫画が登場し、母の過去を語るというように、実にマンガチックに展開し、いささか物足りない。ところが、元ヤンキーのウエイトレスである暴れん坊の中島涼子(扮するは石川美津穂)、可愛いが、気弱な新人レスラー桐島みどり(鈴木美妃)が、現れて話しの中心になっていくにしたがって、映画は急に加速度を増し、どんどん面白くなっていく。
 ここで繰り広げられるファイトシーンは、全て吹き替えなしの生身のぶつかり合い。しかも、この石川、鈴木の演技は他のレスラーを圧倒するうまさで見せる!なんでも、石川は、「アストレス」という格闘技と芸能活動、両方をこなすというプロダクションに所属しているらしい。さらに、鈴木の方は、2ヶ月間のトレーニングで肉体改造に成功したという、元々は、普通の女優さん。いやあ〜、もうその根性には驚かされる! だって、彼女のファイトはまさに本物のプロレスラーそのものなんだから!
 肉体と肉体のぶつかり合いで織り成す試合シーンは圧巻! 私のようなプロレスに関してはまったくの門外漢でもアイアン飯島が言うところの「プロレスの奥深さ」をひしひしと感じずにはいられない。映画の最大の見せ場は、ライバル団体との負けた方が団体解散という決死の死闘が繰り広げられるのだが、途中、アイアン飯島の息子にあてた言葉、「プロレスとは立ち向うこと」が画面にかぶせられて、涙腺を刺激する。試合が終わって、解説者が、「いい試合でした」「いい試合でした」と叫ぶのだが、そこには、物語りを越えた本物の息づかいと、本物の、鼓動と、カタルシスが立ち上っている。「いい映画でした」「いい映画でした」と繰り返したくなる気分だ。格闘シーンの演出のうまさもさることながら、つぶれかけている弱小プロレス団体に所属する、レスラーたちは無論のこと、影で支える裏方にいたるまで、丁寧な描写が行われていて、監督の力量を窺わせる。 だんだんと逞しくなっていく息子役の岡田義徳もいい感じだ。
 で、アイアン飯島のファイテイングポーズにもう、笑わなくなったか、というと、やっぱり笑っちゃうよ最大の敬意を込めて。